遠藤響子/Pure Mode Records

月の光 ~ Clair de Lune ~
制作ノート

こんにちは、遠藤響子です。デビュー30周年にあたり記念アルバムを制作しました。ミュージシャン、スタッフの皆様と愛あるコミュニケーションをとりながら生命力のあるものを作りたい、美しいものを作りたいというのは長年の夢でした。とにかく自分の小さな頭の中で考えているだけではだめだということに気づき、一度全部自分を放り出して他人の手で洗ってもらうしかないと決意を固めたのは去年の秋のこと。では、誰に、とつらつらと考える日々の中、ある日資料として1985年にビクターから出した「夢見るスター」という作品を久しぶりに聞く必要がありました。聞いたとたんに愕然としました。その頃はわからなかった井上鑑さんという音楽家の溢れるような才能が何年もたち私の中にどっと流れ込んだのです。これはもうだめ元でお願いするしかないとメールを送ったのが2011年3月。すると間もなく、快諾のお返事を頂くことが出来、私はうぎゃ~と部屋中を走り回りました。それからアルバムが出来上がるまでの約8ヶ月間、鑑さんはお忙しい中大変なエネルギーを注いで下さり、すべてが自然で無駄がなく的確な判断、バランス感覚、巨大な受信機と発信機をつけたまるで神様のようでした。投げかけて下さるアドヴァイス、アイデア、録音で出てくる最初の音、すべてが私にピンと来て、あ~こういうのやりたかったんだぁと感激すること度々でした。またご参加頂いた菅野よう子さん始めミュージシャンのみなさまとは十数年ぶりに再会するのにもかかわらず、まるで昨日一緒に仕事をした続きかのように最初からしっくり来る、しかしとても新しい感じがする録音でした。今回の制作で30年間バラバラだった点がつながり一気に道筋が見えたような心地がしています。このような幸運に恵まれたことを本当にありがたく思います。このアルバムは私にとって神様からの贈り物です。多くのみなさんにお楽しみ頂けますように!


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1. あなたは強い人
( Pf,Kb井上鑑 Ag小倉博和 Eb井上富雄 Per三沢またろう )

震災後に書いた曲。オリジナルはAメロがキーCで始まりサビは転調して一度高いキーDそして2コーラス目のAメロではまたキーCに戻り、サビで再びキーD、ハーフでさらに半音上のEbに行くという構成だった。プロデューサー&アレンジャーの井上鑑さんは1コーラスはずっとキーはCのままで行った方が良いというアドヴァイスだった。ところが、うちで歌うとやっぱりサビに力が入らず歌いにくのでオリジナルと同じようにして下さいと直訴すると、「でも、この方がいいと思うよ」と低い声で言われ「ハイ」と私。結果、この方が良かった。アドヴァイスを下さった時点でアレンジが見えていたのだと思う。

2. ありがとうが言えない
( Pf井上鑑 Ag小倉博和 Wb井上富雄 Per三沢またろう )

弾き語りで一人で歌ってた時の譜面がそのままメンバーに渡り、ベースのパターン、ディミニッシュスケールなどはそのまま再現されたので驚いた。それに着地点はキーをDからAにすること、ベースとパーカッションだけになってritで終わることを録音の最中に鑑さんが提案。

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3. 女たちよ
( Pf井上鑑 Pf菅野よう子 )

ピアノデュオのアイデアは鑑さんのもの。お恥ずかしい話しだが、今回の録音には菅野さんに参加して頂くことを伝えると「じゃぁ、ピアノデュオでやったら」と言われ、私はずいぶんと長い間、私、と菅野さんがピアノ2台でやるんだと思っていた。曲はどうしようとつらつら考えていて、頭の中の映像は私、と菅野さんがピアノを弾いていた。そして出来た曲。サビは菅野さんにユニゾンで歌ってもらおうと思っていた。ところがある日それがとんでもない勘違いと判明。結果、このような素晴らしい出来となりました。お二人の創造の気が溢れかえる現場はそれはそれはもう素晴らしいの一言。瞬時のかけひき、呼吸。ちなみに音の右が菅野さんスタンウェイ、左が鑑さんベーゼンドルファー。始める前はお二人とも「どうなるんだ」などと言っていたけれども、ピアニスト対決ではなく天才的アレンジャーだからこその出来。一個も音がぶつかっていない。きっとお二人も楽しんでくれたのではないかと思う。そして菅野さんにユニゾンで歌ってもらいたいという私の叫びはだんだんボリュームダウンしそのうち誰もその事について何にも言わなくなったことを書き加えておきます。

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4. 深い海みたいな愛情の海
( Pf井上鑑 Tb村田陽一 )

プリプロで最初にトライした曲。私はこの曲は自分に近すぎて人には迷惑な曲なのではないかとずっと心配していた。個人的過ぎるのではないかと。鑑さんのアイデアはピーターガブリエルのFather, Son 。プリプロで人に伴奏してもらい、またテンポを遅くすることによってヴォーカリストとしては全体の力配分がすごく難しくなったけれど、人に自信を持って聞いてもらえる世界が出現していた。そして録音は深夜1時を回った頃、おそろしく響きが良くなりまるで腐りかけの果物みたいな芳香を放つベーゼンドルファーでとなった。この日はもう6曲も録音しており声が出たのは奇跡だった。ピアノも歌もテイク1。これに震えが来るような村田さんのトロンボーンが足されることとなる。これもテイク1。

5. 一人が好き
( Kb井上鑑 Eg小倉博和 Eb井上富雄 Per三沢またろう Pf遠藤響子 )

今回のアルバムタイトル「月の光」はこの曲の最後のモチーフから取っている。ドビュッシーがとても好きでピアノの譜面台にはいつも「月の光」の楽譜が置きっぱなしになっていた。最初から自分の曲との組み合わせを考えて作っていたのではなく、制作の合間にひと息入れようと月の光をポロリと弾き出し、そしたらAメロが偶然はまった。この詩が好きと言ってくれる人はとても多い。

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6. 一日の終わりに
( Pf井上鑑 Eg小倉博和 Eb井上富雄 Per三沢またろう )

一番自分の弾き語りと違って、軽くカッコイイ感じになった曲。自分でやっている時はせいぜいボサノバテイストだった。プリプロで2コーラス目はキーをひとつ上げてみたくなりそうしてもらった。伴奏してもらうと気分も高揚して声が出ちゃうんだな! パーカッションがとっても気持ちがいい。またちゃんはいつもプレイバックを聞くとすぐに「あ、これはシェーカー入れよう。これはシンバルだ。」と楽しそうに楽器を選んでいた。

7. バカみたい
( Kb井上鑑 Ag小倉博和 Per三沢またろう )

制作過程で忘れられない1曲。これは当初「今夜は一緒に」という恋をして超ハッピーな内容の歌詞だった。 それを鑑さんのこういうキレイなメロディーに重たい歌詞はどう?というアドヴァイスに即反応して出来た詩。だからしばらくはこの曲のタイトルはずっと「今夜は一緒に、改め、バカみたい」と言っていた。

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8. 恋心
( Ag小倉博和 )

始めからおぐちゃんのそばで歌いたいと直訴していた曲。(本当に録音もブースではなくすぐそばで歌いました。)この曲の持つ親しみやすいけれどどこか古ぼけている印象をなんとかしたかった。と、言ってもこの思いをおぐちゃんに伝えていたわけでもないのに、音が出たらびっくり。おぐちゃんがコードをずいぶん変えてアレンジしてくれて悩みはすっかり解消され、こんなに繊細で深い色合いの曲となる。おぐちゃん素敵!

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9. 優しい暗示
( Kb井上鑑 Ag小倉博和 Per三沢またろう )

12曲の楽曲中一番昔に書いた曲。もう10年以上たっているかもしれない。書き溜めている曲は100曲以上はあると思うけど、こうしてずいぶんたって日の目を見る曲もある。しかもおそろしく素敵になって。

10. 貧しき者
( Kb,Ag,Acor 井上鑑 )

震災後に書いた曲。制作段階ではこれを私の弾き語りでということで話は進んでいた。ところがいくらやってみても私がピアノを弾くとただ単にコードの音が埋まるだけで全然ニュアンスが出ない。なので、出来ませんと直訴。お願いだから伴奏して下さいという勢いで。今回の制作の中で鑑さんが特に気を配って下さったのは「埋めすぎない」ということ。これには「上手すぎない」ということも含まれる。何かが足りないくらいで丁度いいのではと鑑さんは常々言っていた。私のキャリアからしてただの手練れになってしまうことを鑑さんも私もとても怖れていた。ではプリプロをやってみましょうというメールのやりとりの中、私が気軽に「鑑さんのギターってのもありですか?」と問いかけた。失礼ながら「上手すぎない、何かが足りない」にぴったりだと思ったから。そして楽曲は偶然にもキーはG(このキーは弾きやすい)。その返事は頂けずプリプロと思って行った現場にはギターを抱える鑑さんの姿が。そしてその日はもうプリプロではなく本番の録音になっていた。これに素晴らしいアコーディオンが加わって、、、 ああ、やっぱり弾き語りでなくって良かった!

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11. 誰だって魔法が好き
( Pf井上鑑 Wb井上富雄 Dr山木秀夫 )

鑑さんが最後の最後まで人選や録音のシチュエーションに迷われた曲。当初はこの曲だけライブハウスでの録音はどうかというアイデアがあった。オリジナルそのものが非常にジャズ的要素の濃いコード使いだったので、私は簡単にブラシが欲しいだの、ジャズテイストでお願いしますだのと言って、ただウキウキとわ~い今日はドラムが山木さんだぁと長年の夢が叶うことだけで気楽に現場に行った。鑑さんがアレンジをなさるのはいつも本番直前。ずっと頭の中でころがしてくれていたであろうアイデアが具現化する瞬間だ。すべて録音の準備が整ったところで出来上がった譜面のコピーが配られる。 で、びっくり。ものすごく立派になっている!そして最初のCメジャーの響きを聞いてもうしびれて、もうそれからずっとしびれっぱなしの録音だった。全部音が回りかぶりまくるパブロスタジオでの録音で私はどんどんマイクに近づき張り付くようにして歌う。ああ、ジャズの人ってよくこうやって歌っているなぁ、はは~んと思った。私としてはこの様なヴォーカルを録音の現場で出来たことは30年の集大成。富雄さんのベースも変に語りすぎずタイム感の大きさがとっても気持ちいい。5~6テイク録った時の幸福感と言ったら、もう言葉では言い表せない。採用されているテイクはみんな練習と思ってやったテイク2。イントロのフレーズでばっと方向性が決まった瞬間でみな止めずに最後までわ~っと演奏したもの(ってゆうか止められなかった)。エンジニアの赤川さんが長年の勘でイントロは少し欠けたものの録っていてくれた。これに他のテイクのイントロを貼り付けて完成。奇跡のテイクです。

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12. 遠い出来事
( Pf菅野よう子 )

この曲は記念すべき今回の録音の1曲目でした。菅野さんのピアノで歌いたいというのはファンハウス時代よりずっと夢見ていたこと。彼女の愛情溢れるきらりと光るニュアンス、センス、ピアノの音。弾き語りをやっている時も何とかして菅野さんのような音は出せないものかと努力してみたが、努力ではとうてい得られないものだと気づいた。やっぱり天才っています。イントロを聞き歌いだすと長年の距離など全く感じずふるさとに帰ったように幸せでした。歌が終わっての後奏は菅野さんが録音の現場で考えたもの。鳥肌がたちます。これにMIXで幻想的なリバーブを赤川さんが作ってくれました。


Producer and Arranger 井上鑑
Vocal and Song Writing 遠藤響子

Musicians
井上鑑 菅野よう子 山木秀夫  小倉博和
三沢またろう 井上富雄 村田陽一

Engineer 赤川新一
Assistant Engineer 菊地健太郎 岸田充善
Mastering Engineer 小泉由香 (orange)

Recording
CRESCENTE STUDIO
Pablo Workshop Studio
Studio Mimizuku

Session coordinate 高橋さえ美 (T-off)
Art Direction and Design 上原則博 (Ud)
Photographer 寺崎誠三 (Intense Inc.)
Assistant photographer 加藤英明 (Intense Inc.)
Hair and Makeup nAomi
Illustration サイトウマサミツ

Special Thanks 川原伸司 相茶紀緒 田島道子


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